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ひき連れて葵かざししそのかみを
思へばつらし賀茂の瑞垣

歌の意味
供を引き連れて葵を挿頭にしたあの昔を思うと、つらいことだ、この賀茂の瑞垣は。
鑑賞
第一部 須磨

 源氏の一行が北山へ向かう途中、賀茂の下の社が見渡せるあたりに差しかかる。供の中に、かつて御禊の日に仮の随身として仕えた右近の将監がいた。この者は源氏に連座して官職を取り上げられ、居場所を失って供に加わっていたのである。馬から下りて口を取りながら、往時を思い出して詠んだのがこの歌である。源氏はその心中を思いやり、自らも下馬して社を拝む。

 「ひき連れて」は供を引き連れての意で、賀茂祭の華やかな行列を指す。「葵かざしし」は葵を挿頭にしたことで、葵巻の祭の場面を直接に呼び起こしている。「そのかみ」は昔のことである。「瑞垣」は神社を囲う垣で、変わらずそこにある社と、変わってしまった自分たちの境遇とが対比されている。主人の失脚に巻き込まれた一介の従者の視点から、栄華の転落が語られている点に、この一首の重みがある。

ひき連る:供を引き連れる。
かざす:挿頭にする。
そのかみ:昔、当時。
つらし:恨めしい、切ない。
瑞垣:神社を囲う垣。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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