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憂しとのみひとへにものは思ほえで
左右にも濡るる袖かな

歌の意味
つらいとばかり一方的に思われるのでもなく、左右どちらの袖も濡れることだ。
鑑賞
第一部 須磨

 その夜、源氏は朱雀帝が親しく昔語りをしてくれたときの様子を思い出す。その面影が故院に似ておられたことも恋しく思われ、帝から賜った御衣を身から離さずかたわらに置いていた。漢詩の一節を口ずさみながら部屋へ入り、そのときに詠まれたのがこの歌である。恨みと恋しさが同時に胸に迫る場面である。

 「憂し」はつらい、恨めしいという意である。「ひとへに」は一方的に、ひたすらにの意で、感情が一色に染まらないことを述べる。「左右にも濡るる袖」は両方の袖が濡れることで、恨みの涙と恋しさの涙とが同時に流れることを表している。二つの相反する感情を、袖の左右という具体的な形に置き換えており、単純な恨みに落ちない源氏の心のありようがよく示されている。

憂し:つらい、恨めしい。
ひとへに:一方的に、ひたすらに。
左右:両方。
濡るる袖:涙に濡れる袖。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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