古典和歌stream

琴の音に弾きとめらるる綱手縄
たゆたふ心君知るらめや

歌の意味
琴の音に引き留められる綱手縄のように、ためらう心を、あなたはご存じでしょうか。
鑑賞
第一部 須磨

 そのころ、大宰大弐の一行が任地から都へ上る途中、須磨のあたりを通りかかる。源氏がここにおられると聞いて、娘たちは舟の中でさえ気恥ずかしく思い、心づかいをする。中でも五節の君は、綱手を引いて通り過ぎるのが残念でならず、風に乗って聞こえてくる琴の音に、皆が涙を流した。やがて五節の君からこの歌が届けられる。

 「琴の音」は源氏の弾く琴の音である。「綱手縄」は舟を引く綱のことで、通り過ぎていく舟の景をそのまま用いている。「たゆたふ」は揺れ動く、ためらう意で、綱がたわむさまと心が定まらないさまを掛けている。舟を引く綱という具体物に、留まりたい心を託した構成で、通りすがりの一瞬に思いを込めた一首である。好色めいた振る舞いを咎めないでほしいと書き添えられている。

琴の音:琴の音色。
弾きとむ:引き留める。「弾く」を掛ける。
綱手縄:舟を引く綱。
たゆたふ:揺れ動く、ためらう。
作者
紫式部
出典
源氏物語
その他の歌