浦風やいかに吹くらむ思ひやる
袖うちぬらし波間なきころ
- 歌の意味
-
そちらの浦の風はどのように吹いているのでしょうか。お案じ申し上げる私の袖も涙に濡れて、乾く間もないこのごろです。
- 鑑賞
-
第一部 明石
須磨を襲った暴風雨は幾日も止まず、源氏は先の見えぬまま日を送っていた。都からの見舞いも途絶える中、二条院からただ一人、雨に濡れそぼった姿の使いが無理を押して辿り着く。紫の上の文にはこの歌が記されており、源氏は開くなり涙で目の前が暗くなる思いをする。この直後、落雷によって廊が焼け、物語は明石への転機へと動き出す。
「浦風」は海辺に吹く風で、須磨にいる源氏の境遇を表す。「いかに吹くらむ」は現地の様子を案じる問いかけである。「思ひやる袖」は遠くから案じる自らの袖のことで、都にいる紫の上の側を指す。「波間なきころ」は波の絶え間がないという意に、涙の乾く間がないという意を重ねている。相手のいる浦の風と自らの袖の涙とを一首の中で向かい合わせる構成で、須磨巻から続く海辺の語彙が、都の側から詠まれている点に特徴がある。
浦風:海辺に吹く風。
思ひやる:遠くから案じる。
うちぬらす:すっかり濡らす。
波間:波の絶え間。涙の乾く間を掛ける。
- 作者
-
紫式部
- 出典
-
源氏物語
- その他の歌
-