古典和歌stream

このたびは立ちわかるとも藻塩やく
けぶりは同じかたになびかむ

歌の意味
この度は別れて旅立つことになっても、藻塩を焼く煙が同じ方へなびくように、私たちの心も同じ方を向いていよう。
鑑賞
第一部 明石

 帰京の日を二日後に控え、源氏はいつもより早い時刻に明石の君のもとを訪れる。はっきりと見たことのなかった容貌が思いのほか気高く優美であることに気づき、見捨てがたく残念に思って、いずれ都へ迎えると約束する。波の音が秋風に乗って響き、塩焼く煙がかすかにたなびく中で詠まれたのがこの歌である。明石の君はこれに返歌をする。

 「このたび」はこの度に「旅」を掛けた語である。「立ちわかる」は別れて旅立つ意で、「立ち」は煙の縁語として働く。「藻塩やく」は海藻を焼いて塩を作ることで、須磨巻以来この二巻を貫く景である。「同じかたになびかむ」は同じ方へなびくだろうという意で、離れても心は一つであることを述べる。目の前の煙をそのまま比喩に取り込む構成で、別れの場の景がそのまま誓いの言葉になっている。

このたび:この度。「旅」を掛ける。
立ちわかる:別れて旅立つ。「立ち」は煙の縁語。
藻塩やく:海藻を焼いて塩を作る。
なびく:横に流れる。心が寄る意を含む。
作者
紫式部
出典
源氏物語
その他の歌