古典和歌stream

年へつる苫屋も荒れてうき波の
かへるかたにや身をたぐへまし

歌の意味
長年住んでまいりました苫屋も荒れ果てて、悲しく浮かぶ波の帰っていく方へ、この身を添わせてしまおうかと存じます。
鑑賞
第一部 明石

 源氏の「うちすてて」の歌を受けて、明石の君が返したのがこの歌である。思っていたことをそのまま詠んだもので、源氏はこれを見てこらえきれずに涙をこぼした。若紫巻以来、父入道が娘に言い渡していた「宿世が違えば海に入れ」という言葉が背後にあり、身を投げることをほのめかす内容になっている。この一首の重さが、以後の明石の君の造形を決定づけている。

 「年へつる苫屋」は長年住んできた粗末な小屋のことで、自らの住まいを卑下して言う。「苫屋」は菅や茅で葺いた小屋である。「うき波」は浮く波に「憂き」を掛けた語で、悲しみを重ねている。「かへるかた」は波が返っていく方角のことで、源氏が帰っていく都の方をも指す。「たぐふ」は寄り添わせる、一緒に行かせるという意である。波に身を添わせるという言い方で入水を暗示しており、直接には言わない形で最も重い内容が述べられている。

年へつる:長年経ってきた。
苫屋:菅や茅で葺いた粗末な小屋。
うき波:浮く波。「憂き」を掛ける。
かへるかた:帰っていく方角。
たぐふ:寄り添わせる、一緒に行かせる。
作者
紫式部
出典
源氏物語
その他の歌