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かへりてはかごとやせまし寄せたりし
なごりに袖のひがたかりしを

歌の意味
立ち返ってはこちらから恨み言を申したいものだ。あなたが心を寄せてくださった、その名残で私の袖は乾きにくかったのだから。
鑑賞
第一部 明石

 五節の君の歌を受けて、源氏が返したのがこの歌である。かつて飽き足らず心惹かれた思い出の名残があるので、突然の便りに驚かされていっそう思い出されるものの、このごろはそうした色恋の振る舞いをまったく慎んでいる様子であった。花散里などにもただ文ばかりで、かえって恨めしがられるのであった。この一首をもって明石巻は閉じられる。

 「かへりて」は立ち返っての意で、須磨の浦に立ち返る意と、逆にこちらからという意を掛けている。「かごと」は恨み言、託ち言のことである。「寄せたりし」は相手の歌の「心をよせし」を受け直した語で、波が寄せる意をも重ねる。「なごり」は波の引いた後に残る跡のことである。相手の海辺の語彙をそのまま用いながら、濡れた袖はこちらの方だと切り返す機知の応酬になっており、須磨巻の贈答と同じ調子で二巻が締めくくられている。

かへりて:立ち返って。逆にの意を掛ける。
かごと:恨み言、託ち言。
寄す:心を寄せる。波が寄せる意を掛ける。
なごり:波の引いた後に残る跡。
ひがたし:乾きにくい。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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