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露けさのむかしに似たる旅ごろも
田蓑の島の名にはかくれず

歌の意味
涙に濡れていた昔に似たこの旅の衣は、田蓑の島という蓑の名によっても隠すことができない。
鑑賞
第一部 澪標

 明石の君の返しを受けた源氏は、田蓑の島で禊を行う。日が暮れかかり、夕潮が満ちてきて、入江の鶴が声を惜しまず鳴き渡る。その哀愁の深い折であったからか、源氏は人目もはばからず明石の君に逢いたいとまで思う。そのときに詠まれたのがこの歌である。この後、帰路でも遊覧を重ねながら、心はなお明石の君にかかっていた。

 「露けさのむかし」は涙に濡れていた昔の意で、須磨明石の侘住まいの日々を指す。「旅ごろも」は旅の衣のことで、明石巻以来この主人公の流離を表す語として用いられてきた。「田蓑の島」は淀川河口にあったとされる歌枕で、その名に含まれる「蓑」が雨を防ぐ道具であることから、涙を隠せないという趣向を導く。貫之の「雨により田蓑の島を今日ゆけど 名には隠れぬものぞありける」を踏まえた一首である。

露けさ:涙に濡れていること。
旅ごろも:旅の衣。
田蓑の島:歌枕。淀川河口の島。
名:名前。「難波」を響かせる。
かくる:隠れる。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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