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亡き人を恋ふる袂のひまなきに
荒れたる軒のしづくさへ添ふ

歌の意味
亡き人を恋しく思う涙に袖の乾く間もないのに、荒れた軒から落ちる雫までが加わることだ。
鑑賞
第一部 蓬生

 四月ごろ、源氏は花散里を思い出して忍びで出かける。名残の雨がまだ落ち、風情ある夕月の中を進むと、荒れ果てて森のような木立の家を通り過ぎた。大きな松に藤が咲きかかって月光に揺れ、その香に惹かれて車から身を乗り出すと、それは常陸宮邸であった。一方その頃邸の内では、末摘花が昼寝の夢に亡き父宮を見て、雨漏りに濡れた廂を拭かせ、御座所をととのえさせながらこの歌を詠んでいた。この直後、源氏は惟光に中の様子を探らせる。

 「亡き人」は故常陸宮を指す。「ひまなき」は絶え間のないことで、涙に袖の乾く間がないさまである。「荒れたる軒のしづく」は雨漏りのする軒から落ちる雫のことで、邸の荒廃をそのまま示す。「添ふ」は加わることである。涙と雨漏りという二つの水を重ねる型は物語に多いが、ここでは比喩ではなく実際に雨漏りする家に住んでいる点が異なる。源氏が門外で藤を眺めている、まさにその時刻に詠まれた一首として置かれている。

亡き人:故常陸宮。
恋ふ:恋しく思う。
ひまなし:絶え間がない。
軒:屋根の端。
しづく:滴り落ちる水。
添ふ:加わる。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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