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別るとてはるかにいひしひとことも
かへりてものは今ぞかなしき

歌の意味
都を離れて伊勢へ下る時、都の方へお戻りになるなと、はるかに隔てておっしゃったあのお言葉も、帰京した今となってはかえって悲しく思われます。
鑑賞
第一部 絵合

 朱雀院の「わかれ路に」の歌を受けて、前斎宮が返したのがこの歌である。源氏が返事を促すのを、前斎宮はひどく恥ずかしく思うが、伊勢下向に先立つ儀式での朱雀院の優に美しかった姿、涙をこぼされたご様子を思い出し、また亡き母六条御息所のことも書きつらねて、しみじみと心動かされてこの一首を返した。源氏は返歌をたいそう見たく思うが、それはかなわなかった。

 「別るとて」は別れるということでの意で、伊勢下向の折を指す。「はるかにいひし」は遠く隔てて言ったの意で、賢木巻の「都の方に帰りたまふな」を承ける。「ひとこと」はその一言のことである。「かへりて」は都に帰りての意と、却ってすなわちかえっての意を掛けている。相手の贈歌が別れの櫛の儀式を持ち出したのに対し、こちらもその同じ言葉を受けて返す構成で、帰京した今こそあの言葉が悲しいと述べている。澪標巻で母の死に際して初めて自らの声を持ったこの人物が、ここでは公的な贈答の場で歌を返している。

別る:別れる。伊勢下向を指す。
はるかに:遠く隔てて。
ひとこと:一言。「帰りたまふな」の言葉。
かへりて:都に帰りて。「却りて」を掛ける。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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