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一人ゐて嘆きしよりは海人の住む
かたをかくてぞ見るべかりける

歌の意味
都で一人残って嘆いていたよりは、海人の住むあの浦のありさまを、こうして絵で見るのがよかったのだ。
鑑賞
第一部 絵合

 帝の御前での絵合を控え、源氏は古い絵も新しい絵も収めた御厨子を開けさせ、紫の上とともに出す絵を選び調える。その折、須磨明石で描きためた旅の日記の箱をも取り出させ、初めて紫の上に見せた。事情を深く知らぬ者でも涙をこらえがたいほどのその絵に、まして忘れがたいあの日々を思い返す二人は、取り返し悲しく思い出される。今まで見せてくれなかった恨みを紫の上が述べたのを受けて詠まれたのがこの歌である。紫の上はこれに返歌をする。

 「一人ゐて」は一人残っての意で、源氏が須磨へ下った間、都に留まった紫の上の身の上を指す。「海人の住むかた」は海人の住む浦のことで、須磨明石を指す。「かくてぞ見る」はこうして絵で見るの意である。「べかりける」は…するのがよかったのにという詠嘆である。実際に別れて嘆いた過去と、絵を通して追体験する現在とを対比する構成で、須磨明石の絵日記がこの巻で果たす役割がこの一首に示されている。

一人ゐる:一人残っている。
海人:漁をする人。
かた:浦、方角。
かくて:こうして。
べかりける:…するのがよかったのに。詠嘆。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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