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憂きめ見しその折よりも今日はまた
過ぎにしかたにかへる涙か

歌の意味
あのつらい思いをした当時よりも、今日はまた、過ぎ去った日々を絵に見て、そこへ立ち返る涙がこぼれることです。
鑑賞
第一部 絵合

 源氏の「一人ゐて」の歌を受けて、紫の上が返したのがこの歌である。須磨明石の絵日記を初めて見て、当時の悲しみが改めて胸によみがえる。中宮にだけはお見せすべきものだと源氏が言い、差し障りのない一帖ずつを選ぶ折にも、明石の家居のことをまず思いやらぬ時とてないのであった。この後、絵合は帝の御前での本番へと進む。

 「憂きめ見し」はつらい思いをしたの意で、須磨明石の別れの日々を指す。「その折」はその当時のことである。「過ぎにしかた」は過ぎ去った日々のことで、絵に描かれた過去を指す。「かへる涙」は立ち返る涙の意で、過去へ引き戻される涙をいう。相手が過去と現在を対比したのに対し、こちらは当時よりも今の方が涙がこぼれると返しており、絵によって悲しみが更新されるという逆説を述べている。須磨巻以来の「憂きめ」「憂し」の語がここでも用いられている。

憂きめ:つらい思い。
その折:その当時。
過ぎにしかた:過ぎ去った日々。
かへる:立ち返る。
涙:泣くこと。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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