古典和歌stream

故里に見し世の友を恋ひわびて
さへづることを誰か分くらむ

歌の意味
故郷で親しくしていた昔の友を恋しく思ってさえずっているのを、いったい誰が聞き分けてくれるだろう。
鑑賞
第一部 松風

 尼君の歌に続いて、明石の君が母の思いに応じるように詠んだのがこの歌である。長年住み馴れた明石の浦を離れ、なじみのない大堰の地に移ってきた心細さと、かつての土地に残してきた人々への思いが交錯している。慣れない土地での暮らしの中で、ふと漏らされた感慨として置かれている。

 「故里」は明石の浦を指し、長く暮らした住み馴れた土地のことである。「見し世の友」は、そこで親しく交わった昔なじみの人々のことをいう。「さへづる」は本来鳥がさえずる意で、ここでは自分がとりとめもなく思いを口にすることを、鳥のさえずりになぞらえている。「誰か分くらむ」は、その思いを聞き分け、心を汲んでくれる人などいないだろうという心細さを述べている。移り住んだ先での孤独と、去りがたかった土地への未練が重ねられた一首である。

故里:古くから住み馴れた土地。ここでは明石の浦。
見し世:過ぎ去った昔。かつて親しんだ日々。
さへづる:鳥が鳴く。転じて、とりとめなく言葉を発する。
分く:聞き分ける。心を汲みとる。
作者
紫式部
出典
源氏物語
その他の歌