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あさからぬしたの思ひをしらねばや
なほかがり火のかげはさわげる

歌の意味
浅くない、水の下の私の深い思いを知らないからだろうか、それでもやはり篝火の火影は水面で乱れ騒いでいる。そのようにあなたも、私の深い心を知らずに、なお一人で嘆いているのだろうか。
鑑賞
第一部 薄雲

 明石の君の「いさりせし」の歌を受けて、源氏が返したのがこの歌である。篝火も辛い思いもあの時のままだと申し上げる明石の君に、こちらからも恨み言を述べる。古今集の「篝火の影となる身のわびしきは流れて下に燃ゆるなりけり」を背景に、私の深い心を知らないからあなたは一人で嘆くのだと諭している。もの静かに過ごす時節で、源氏は尊い仏事に心を向け、いつもより多くの日数を大堰に滞在したので、明石の君も少しは物思いが紛れただろうということである。

 「あさからぬしたの思ひ」は浅くない水の下の思いの意で、「した」に水底と心の底を掛け、源氏自身の明石の君への深い思いをいう。「思ひ」の「ひ」に火を掛け、篝火の縁語とする。「しらねばや」は知らないからだろうかの意である。「かがり火のかげ」は篝火の水面に映る火影のことで、「さわげる」は乱れ揺れることに、明石の君が一人思い乱れることを重ねる。相手が篝火に憂き身を託したのに対し、水底に燃える深い思いを持ち出し、その心を知らぬゆえに一人嘆くのだと返しており、水と火の縁語で二首の贈答がまとめられている。

あさからぬ:浅くない。
した:水底。心の底を掛ける。
思ひ:「火」を掛ける。
かげ:水面に映る火影。
さわぐ:乱れ揺れる。思い乱れる意を掛ける。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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