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なき人をしたふ心にまかせても
かげ見ぬみつの瀬にやまどはむ

歌の意味
亡き人を慕う心のままに後を追って行っても、その姿も見えぬ三途の川の瀬で、道に迷うばかりなのだろうか。
鑑賞
第一部 朝顔

 藤壺の夢を見た源氏は、宮が「苦しい目を見せる」と恨むのも、自分たちの過ちゆえに藤壺がこの世の濁りをすすぎきれずにいるからだと思い至り、深く悲しむ。どうにかして宮のいる世界を訪ね、その罪に代わってやりたいとまで思う。だが亡き人のために特別な仏事を営めば人に怪しまれ、帝の疑いを招くのも憚られるため、ひそかに阿弥陀仏を念じるほかない。極楽で同じ蓮の上にとは願えぬ身を思い、源氏が詠んだのがこの独詠歌である。

 「なき人」は亡き藤壺の宮である。「したふ心にまかせても」は、慕う気持ちのままに後を追っても、という意である。「かげ見ぬ」は、その姿も見えない、である。「みつの瀬」は「水の瀬」と「三つの瀬(=三途の川)」を掛けている。「まどはむ」は、道に迷うだろう、という意である。夫婦ではない二人は、極楽で同じ蓮の上に生まれ変わることもかなわず、慕う心のままに後を追っても、三途の川で藤壺の姿を見つけられずにさまようばかりだろう、という絶望をこめた一首である。この歌をもって朝顔の巻は閉じられる。

なき人:亡くなった人。ここでは藤壺。
したふ:恋い慕う。後を追う。
かげ:姿。
みつの瀬:「水の瀬」に「三つの瀬」(三途の川)を掛ける。
まどふ:道に迷う。さまよう。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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