かけきやは川瀬の浪もたちかへり
君がみそぎのふぢのやつれを
- 歌の意味
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思ってもみただろうか。賀茂川の川瀬の浪が立ち返るように、また御禊の日がめぐってきて、あなたが藤衣に身をやつしたまま、除服の禊をなさろうとは。
- 鑑賞
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第一部 乙女
年が改まり、藤壺の宮の一周忌も過ぎて、世の中は喪の色から平常の色にもどった。更衣のころも華やかで、まして賀茂祭の季節は空のけしきも心地よい。しかし父の式部卿宮を亡くして斎院を退いた朝顔の姫君は、所在なく物思いに沈んでいる。庭前の桂の下風がなつかしく吹くにつけ、若い女房たちは華やかだった斎院時代を思い出す。そこへ源氏から、御禊の日はさぞくつろいだ気持ちであろうという見舞いが届いた。紫の紙を立文にきちんと折り、藤の花に結びつけた、懸想文と誤解されぬための配慮のある体裁である。姫君は折にかなった風情を認めて返歌を送り、以後も源氏は除服の折に心づくしの品を届け続けるので、女房たちは断るきっかけもなく持て余すことになる。
「かけきやは」は心にかけて思っただろうか、いや思いもしなかった、という反語である。「たちかへり」は川瀬の浪が立ち返る意と、御禊の日が再びめぐってくる意を掛ける。「みそぎ」は斎院として仕えていたころの賀茂の御禊と、喪服を脱ぐ除服の禊とを重ねている。「ふぢ」は藤の花と藤衣すなわち喪服とを掛け、「川瀬の浪」の縁語である「淵」も響かせる。藤の花に結んで贈った趣向とも呼応する仕掛けである。斎院として神に仕えていたころの晴れやかな禊と、父を喪って喪服に身をやつす今の禊とを対比し、境遇の変わりようを惜しんだ弔いの歌である。恋情を前面に出さず、あくまで儀礼の見舞いという体裁を保っているところに、姫君の心を損なうまいとする源氏の周到さがうかがえる。
かけきやは:心にかけて思っただろうか、いや思いもしなかった。
川瀬の浪:賀茂川の浅瀬に立つ波。
たちかへり:波が立ち返る意と、時節が再びめぐる意を掛ける。
みそぎ:斎院の賀茂の御禊と、喪服を脱ぐ除服の禊とを掛ける。
ふぢ:藤の花と藤衣(喪服)とを掛ける。
やつれ:みすぼらしい姿になること。喪服姿。
- 作者
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紫式部
- 出典
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源氏物語
- その他の歌
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