くれなゐの涙にふかき袖の色を
あさみどりにやいひしをるべき
- 歌の意味
-
血の涙に濃く染まった私の袖の色を、六位の浅緑などと言っておとしめてよいものだろうか。
- 鑑賞
-
第一部 乙女
内大臣が雲居雁を自邸へ引き取ろうとする前夜、乳母の宰相の計らいで、夕霧はようやく雲居雁と対面する。互いに恥ずかしく胸がつぶれる思いで、言葉もなく泣くばかりだが、恋しいかと問われて姫君がかすかにうなずくさまも、いかにも幼い。そこへ内大臣が退出してくる気配があり、先払いの声に女房たちが騒ぎ立てる。姫君は恐ろしさにふるえるが、夕霧はいっそ騒がれよとばかりに袖を放さない。捜しに来た乳母がこの様子を見て、「いかに立派な方でも、結婚のはじめが六位風情との縁ではね」とつぶやくのが、屏風越しにかすかに聞こえた。位のなさを侮られたと知った夕霧は、恋しさもいくらか冷めるほど世の中が恨めしくなり、その屈辱をそのまま歌にして姫君に聞かせたのである。
「くれなゐの涙」は血の涙で、悲嘆の極みに流す涙をいう。「ふかき袖の色」はその紅に濃く染まった袖である。「あさみどり」は浅緑で、六位の袍の色である浅葱をさす。「くれなゐ」の濃さに対して「あさ(浅)」を対置し、色の濃淡をそのまま位階の高下に重ねている。「いひしをる」は言いおとしめる、けなすの意。恋に深く染まった袖の色を、たかが位の色で言い落としてよいものかという抗議である。恋の歌でありながら、詠まれているのは身分への憤りであって、六位にとどめられた少年の傷ついた自尊心が生々しく響く。なお第四句を「あさみどりとや」とする本も多い。
くれなゐの涙:血の涙。深い悲しみのあまり流す涙。
ふかき:色が濃い意と、思いが深い意とを掛ける。
あさみどり:浅緑。六位の袍の色である浅葱をいう。
いひしをる:言いおとしめる。けなす。
- 作者
-
紫式部
- 出典
-
源氏物語
- その他の歌
-