かけていへば今日のこととぞ思ほゆる
日かげの霜の袖にとけしも
- 歌の意味
-
五節のことに託しておっしゃるなら、まるで今日のことのように思い出される。日の光に霜が解けるように、日蔭のかづらをかけた私が、あなたに心を許したあの昔のことも。
- 鑑賞
-
第一部 乙女
源氏の懐旧の歌に対する、筑紫の五節の返しである。青摺の紙を季節にふさわしく取り合わせ、墨の濃淡をまぜて筆跡を紛らわし、草仮名を多く用いて散らし書きにしてある。源氏は、大弐の娘という身分にしては風情があるとお思いになって御覧になる。一方、夕霧もあの舞姫が目にとまるにつけ、人知れず恋しさをつのらせて何とか逢えないかとうろうろするのだが、舞姫は近づけもせずきっぱりよそよそしいので、遠慮がちな年頃の心には嘆かわしいまま終わってしまう。それでもその顔立ちは胸に焼き付いて、つらい人の慰めにでも逢えぬものかと思うのだった。
「かけて」は五節のことに託しての意で、日蔭のかづらを「かける」に掛かる。「日かげ」は日の光と、舞姫が冠にかける日蔭のかづらとを掛けている。「日かげの霜の」は「とけ」を導く序詞で、「霜」と「とけ」は縁語である。「袖」は源氏をさし、「とけ」は霜が解ける意と、心が打ち解ける意とを重ねる。かつて舞姫であった自分が源氏に心を許したことを、今日のことのように思い出すという返しで、源氏の懐旧にはこまやかに応じながら、年を経たと言われたことにはあえて触れない。掛詞と縁語を幾重にも織り込んだ、洗練された一首である。
かけていへば:五節のことに託して言うならば。
日かげ:日の光と、舞姫が冠にかける「日蔭のかづら」とを掛ける。
とく:霜が解ける意と、心が打ち解ける意とを掛ける。
袖:ここでは源氏をさす。
思ほゆ:自然と思われる。
- 作者
-
紫式部
- 出典
-
源氏物語
- その他の歌
-