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いにしへを吹き伝へたる笛竹に
さへづる鳥の音さへ変らぬ

歌の意味
昔の音色をそのまま吹き伝えている笛の音に加えて、さえずる鳥の声、すなわち春鶯囀の調べまでも、昔と変わらないことだ。
鑑賞
第一部 乙女

 かつて帥宮と申しあげ、今は兵部卿となっている源氏の弟宮が、今上の冷泉帝に御盃を差し上げて詠んだ歌である。源氏の歌は桐壺帝の御代を懐かしむものであり、朱雀院の歌は上皇としての境涯を嘆くものであって、そのままでは今の御代を暗に批判する形になりかねない。そこを兵部卿宮が、昔と少しも変わらぬ素晴らしさだとまとめたのである。見事に奏上したその心遣いは格別にすぐれていると語られ、これを受けて帝も御盃をお取りになって歌を返される。

 「いにしへ」は昔、ここでは桐壺帝の御代の花の宴の音色のすばらしさをさす。「笛竹」は笛、また音楽全般をいう。「さへづる鳥の音」は春鶯囀の調べを言いなしたものである。「さへ」を用いて、笛の音ばかりか鳥の声までもと畳みかけ、昔のままであることを強調する。前の二首が過去への懐旧と現在への嘆きに傾いていたのを、今の御代もまた昔に劣らぬと言い直して座を収めた、目配りの利いた一首である。宴席の歌が単なる風雅ではなく、政治的な配慮を伴うものであることが、この一首によく表れている。

いにしへ:昔。ここでは桐壺帝の御代。
笛竹:笛。また音楽全般をいう。
さへづる鳥の音:春鶯囀の調べを言いなしたもの。
さへ:…までも。添加を表す。
変らぬ:変わらない。
作者
紫式部
出典
源氏物語
その他の歌