こころから春まつ苑はわがやどの
紅葉を風のつてにだに見よ
- 歌の意味
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ご自分の好みで春を待っておられるそちらの苑では、今は所在ないでしょう。せめてわが宿の紅葉を、風のたよりにでも御覧ください。
- 鑑賞
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第一部 乙女
六条院が完成し、秋の彼岸のころ、紫の上と花散里がまず移り住んだ。五、六日ののち、中宮も宮中から西南の秋の町へお下がりになる。町と町との境の隔てには塀や廊をめぐらして行き来できるようにし、御方々が親しく交際できるよう源氏は心を配っていた。九月になると紅葉がところどころ色づいて、中宮の町の前栽はえもいわれぬ風情である。風の吹いた夕暮、中宮は箱の蓋にさまざまの花や紅葉を混ぜ合わせ、装いを凝らした大柄な女童に持たせ、渡殿の反橋を渡らせて春の町へ贈られた。その文に添えられたのがこの歌である。かつて源氏に春秋いずれを好むかと問われて秋を選んだ中宮が、春を選んだ紫の上に挑む形になっている。
「こころから」は自分の心のせいで、みずからの好みでの意である。「春まつ苑」は春を待つ庭で、春の町に住む紫の上をさす。「風のつて」は風のたよりで、ここでは女童が運ぶ文をそう言いなしている。「だに」はせめて…だけでもの意。秋の盛りの今、春を待つあなたの庭は寂しかろうから、こちらの紅葉でも眺めなさい、という優雅な挑発である。春秋優劣論は『万葉集』の額田王の歌以来の伝統であるが、それを四季の町を備えた六条院という住まいそのものに重ねて展開したところに、この場面の趣向がある。
こころから:自分の心のせいで。みずからの好みで。
苑:庭園。ここでは六条院の春の町。
わがやど:わが家。ここでは秋の町。
風のつて:風のたより。ここでは女童の運ぶ文をいう。
だに:せめて…だけでも。
- 作者
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紫式部
- 出典
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源氏物語
- その他の歌
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