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風に散る紅葉はかろし春のいろを
岩ねの松にかけてこそ見め

歌の意味
風に散る紅葉など軽いものだ。春の色をこそ、岩根の松にかけて御覧になるのがよいだろう。
鑑賞
第一部 乙女

 中宮からの紅葉の贈り物に対する、紫の上の返しである。同じ箱の蓋に苔を敷き、巌の趣向をこらして、五葉の松の枝にこの歌を結びつけて返した。その岩根の松も、よく見ればなんともいえず精巧にこしらえた作り物であった。とっさにこれだけの趣向を思いつく才覚を、中宮はおもしろいと御覧になり、御前の女房たちも褒めあう。源氏は「この紅葉のお手紙にはたいそうしてやられたようですね。今の季節に紅葉を言いけなしては龍田姫の思うこともあるでしょうから、ここは譲って、春の花盛りになってから御返事をなさい」と申される。この応酬は、のちの胡蝶巻でみごとに決着がつけられることになる。

 「かろし」は軽薄である、底が浅いの意で、散ってしまう紅葉のはかなさをそのまま「軽い」と言い切っている。「春のいろ」は敷いた苔や五葉の松の緑で、常盤の色をさす。「岩ね」は岩の根で、普遍的で永遠なるもののたとえである。「かけて」は託しての意で、松に「かける」を響かせている。散る紅葉と変わらぬ松の緑とを対置し、永続するものの価値を説く趣向である。歌だけでなく、作り物の岩根の松を添えて贈るという、詞と物とが一体になった仕立てがみごとで、六条院の女君たちの交際が単なる社交にとどまらぬ機知の応酬であったことを、この一首がよく示している。

かろし:軽薄である。底が浅い。
春のいろ:春の色。ここでは苔や五葉の松の常緑をさす。
岩ね:岩の根。永遠に変わらぬもののたとえ。
かけて:託して。松に「かける」意を響かせる。
こそ見め:見るのがよいだろう。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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