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初瀬川はやくのことは知らねども
今日の逢ふ瀬に身さへながれぬ

歌の意味
初瀬川の流れが早いように、昔のことは何も知らないけれど、今日のこの逢瀬のうれしさに、涙とともにこの身までも流れてしまいそうだ。
鑑賞
第一部 玉鬘

 右近の歌に応えた返歌である。泣いていらっしゃるさまは、まことに見映えがすると語られる。右近は、田舎じみてごつごつしたところもなくこれほど美しくご成長になったことに驚き、乳母の養育をうれしく思う。母君の夕顔がひたすら若々しくおおらかで、なよなよとやわらかであったのに対し、この姫君は気品があり、立ち居振る舞いもこちらが気後れするほどたしなみが身についている。以後、父内大臣が多くの子をみな一人前に育てていると聞くにつけ、姫君も日陰の身ながら望みを抱くようになった。互いに宿を尋ねあって別れたが、右近の家は六条院に近く、九条からもさほど遠くはなかった。

 「初瀬川」は右近の歌の「ふる川」を受けたもの。「はやく」は流れが早い意と、昔
以前の意とを掛け、川の縁語として働いている。四歳で都を離れた姫君には、母のことも自身の素性も知る由がなかった。「逢ふ瀬」は逢う機会の意に、川の「瀬」を掛ける。「身さへながれぬ」は、涙が流れるばかりか我が身までも流れてしまいそうだ、ということで、これも「流る」の縁語仕立てである。川にまつわる語を重ねながら、知らぬままに過ごした歳月への痛みと、再会の喜びとを一首に収めている。

初瀬川:大和国の川。長谷寺の前を流れる。
はやく:流れが早い意と、昔
以前の意とを掛ける。
逢ふ瀬:逢う機会。「瀬」は川の浅瀬を掛ける。
身さへながる:涙のみならず我が身までも流れる。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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