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きてみればうらみられけり唐衣
かへしやりてん袖をぬらして

歌の意味
着てみればかえって恨みの心がわいてきた。この唐衣は裏を返してお返ししてしまいたい、涙で袖を濡らしながら。
鑑賞
第一部 玉鬘

 年の暮、源氏は六条院と二条東院の女君たちに正月の御装束を配った。それぞれの人柄にふさわしい色合いを選ぶさまを紫の上と語らう、いわゆる衣配りの場面である。方々からの返礼もそれぞれ並々でなかったが、二条東院に住む末摘花は、几帳面な人柄で作法どおりにきちんとふるまい、山吹の小袿の袖口がひどくすすけたものを、裏打ちの下着もつけずに御使の肩にかけた。御文はよく香を焚きしめた陸奥国紙の、少し古びて厚く黄ばんだものに書かれており、時代がかった筆跡でこの歌が記されていた。源氏はほほ笑んですぐには手紙を置かず、御使に与えられた禄の見苦しさには機嫌を損ねる。女房たちはひそひそと笑いあうのだった。

 「きてみれば」の「きて」は衣を着る意。「うらみ」は恨みと、衣の裏見とを掛ける。「かへし」は衣を返す意と、裏を返す意とを掛けている。「着る」「裏」「唐衣」「かへし」「袖」がすべて縁語として畳みかけられており、古風な作法にきっちり則った詠みぶりである。訪れもなく衣だけを賜るのはかえってつらい、という恨み言なのだが、源氏はその型どおりの古めかしさに苦笑する。技巧を尽くしているのに少しも心が動かない、というこの一首は、末摘花という人物の可笑しさと痛ましさを同時に伝えている。

きてみれば:着てみると。「着る」は衣の縁語。
うらみ:「恨み」と衣の「裏見」とを掛ける。
唐衣:唐風の上着。女性の晴れの装束。
かへしやる:送り返す。衣の裏を返す意を掛ける。
袖をぬらす:涙で袖を濡らす。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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