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かへさむといふにつけてもかたしきの
夜の衣を思ひこそやれ

歌の意味
返そうとおっしゃるにつけても、衣を片敷いてお過ごしになる独り寝の夜が、思いやられることです。
鑑賞
第一部 玉鬘

 源氏は末摘花の歌を見て、昔気質の歌詠みは「唐衣」「袂濡るる」といった恨み言から離れられないものだ、自分もその類ではあるが、と笑う。常陸の親王が書き残した紙屋紙の草子を見よといって送ってこられたが、和歌の奥義がぎっしり詰まって避けるべき欠点ばかり多く説かれており、もともと不得手な自分にはかえって身動きが取れなくなりそうだったので返してしまった、とも語る。紫の上が、書きとどめて姫君にもお見せになればよかったのにと真面目に応じると、源氏は、女が取り立てて一事に没頭するのは感心しないと諭す。返事はまるで念頭になかったが、「返しやりてむ」とあるのにこちらから押し返さないのも失礼でしょうと紫の上に促され、誰に対しても情けを忘れぬ御心から、たいそう気楽な調子で書き送ったのがこの歌である。

 「かへさむ」は末摘花の「かへしやりてん」を受けたもの。衣を裏返して寝ると恋しい人が夢に現れるという当時の言い伝えを踏まえ、返そうという言葉に、独り寝の寂しさを読み取ってみせる。「かたしき」は自分の衣の袖だけを敷いて寝ることで、ひとり寝を表す常套の語である。相手の恨みをまともに受け止めるでもなく、はぐらかすでもなく、寂しさをお察ししますと引き取る返し方であって、「ことわりなりや」と添えた一言にも余裕がある。気を遣う必要のない相手だからこその気楽さだと語られるが、それでも返事を欠かさぬところに、源氏の情の細やかさが見える。

かへす:衣を送り返す意と、衣を裏返して寝る意とを響かせる。
かたしき:自分の衣の袖だけを敷いて寝ること。ひとり寝。
夜の衣:夜着。寝るときに用いる衣。
思ひこそやれ:思いやられることだ。
ことわりなり:もっともである。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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