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風吹けば波の花さへいろ見えて
こや名にたてる山ぶきの崎

歌の意味
風が吹くと、波に映った花の色までも見えて、ここが名高い山吹の崎なのだろうか。
鑑賞
第一部 胡蝶

 源氏三十六歳の弥生二十日すぎ、春の御殿の前庭は、いつにもまして花の色も鳥の声も尽きせぬ美しさで、六条院の他の町の人々には、あちらではまだ春の盛りが過ぎていないのかと不思議に思われるほどであった。源氏は唐風の舟を新たに造らせ、はじめて池に浮かべる日に雅楽寮の役人を召して船の楽を催す。秋の町から下がっている中宮に春の景色を見せたいという思いから、中宮方の若い女房たちを舟に乗せ、境の築山の岬を回って春の御殿の東の釣殿へ招き寄せた。龍頭鷁首の舟を唐風に飾り立て、角髪を結った童が棹をさすさまは、見なれぬ女房たちには異国に来たような心地がする。中島の岩陰に舟を寄せて眺めれば、立石の風情もそのまま絵のようで、そのうちに詠み交わされた歌の一つがこれである。

 「波の花」は白く立つ波を花に見立てた語である。ここではその白い波の上に、岸辺の山吹の黄が映りこんで見えるという趣向で、「いろ見えて」はその色づいた景をいう。「山ぶきの崎」は近江国の名所とされ、山吹の名を負う地名を持ち出して、目の前の景と重ねている。「こや」はこれこそがの意で、詠嘆を伴う。舟から間近に見る池の水面が、名所そのままの景色に見えるという興趣であって、六条院の池がそのまま歌枕の世界に化するところに、この庭園の趣向が言い当てられている。

波の花:白く立つ波を花に見立てた語。
いろ見ゆ:色づいて見える。
こや:これこそが。詠嘆を伴う。
名にたつ:世に名高い。評判である。
山ぶきの崎:近江国の名所とされる地名。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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