春の池や井手のかはせにかよふらん
岸の山吹そこもにほへり
- 歌の意味
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この春の池は、井手の川瀬に通じているのだろうか。岸の山吹が、水の底にまで色づいて映っている。
- 鑑賞
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第一部 胡蝶
舟の上で詠み交わされた歌の一つである。あちらこちら霞んだ木々の梢は錦を引きわたしたようで、御前の方ははるばると見渡され、柳は色を増して枝を垂れ、桜はよそでは盛りを過ぎているのに今を盛りとほほ笑んでいる。廊をめぐる藤も色濃く咲きはじめ、なかでも水に影を映す山吹が岸からこぼれて今が盛りであった。水鳥がつがいのまま細い枝をくわえて飛び交い、鴛鴦がさざなみの綾に紋を添えるさまは、そのまま図案に写し取りたいほどで、女房たちは斧の柄も朽ちるという故事さながらに時の経つのを忘れて日を暮らす。
「井手のかはせ」は山城国井手の玉水で、万葉以来の歌枕であり、山吹の名所として名高い。『古今集』の「かはづ鳴く井手の山吹散りにけり花のさかりにあはましものを」などが背景にある。「かよふらん」は水脈が通じているのだろうかということ。「そこも」は水の底にもの意で、岸の山吹の色が水底にまで映っている景をいう。前の歌が近江の山吹の崎を引いたのに対し、こちらは山城の井手を引いており、山吹をめぐる二つの歌枕を並べて興じている。六条院の池が名所の水と地下でつながっているのではないかという着想が、この庭の別世界ぶりを伝えている。
井手のかはせ:山城国井手(京都府綴喜郡)の川瀬。山吹の名所として名高い歌枕。
かよふ:通じる。行き来する。
岸の山吹:岸辺に咲く山吹。
そこ:水の底。
にほふ:美しく色づく。
- 作者
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紫式部
- 出典
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源氏物語
- その他の歌
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