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むらさきのゆゑに心をしめたれば
ふちに身なげん名やはをしけき

歌の意味
紫のゆかりの人ゆえに心を染めてしまったのだから、藤の淵に身を投げたと評判が立とうとも、何の惜しいことがあろうか。
鑑賞
第一部 胡蝶

 夜が明けても遊びは続いた。西の対の姫君(玉鬘)が非のうちどころのない美しさで、源氏がことに大切に世話をしているという評判が広まり、心を寄せる公達が多い。中でも兵部卿宮は、長年の北の方を亡くしてこの三年ほど独り住みであったから、遠慮なく好意をほのめかす。今朝もたいそう酔ったふりをして藤の花を冠にかざし、なよなよと騒いでいるさまがおもしろい。源氏は思惑どおりだと内心では思いながら、つとめて知らぬ顔をしている。盃の番になると宮はたいそう困った体で、思うところがなければもう逃げ帰っているところだ、酒はもう堪えられぬと辞退しつつ、この歌を詠んで同じ藤のかざしを源氏に差し上げた。

 「むらさき」は『古今集』の「紫のひともとゆゑに武蔵野の草はみながらあはれとぞ見る」を踏まえ、源氏に連なる縁の者、すなわち玉鬘をさす。「心をしめたれば」は心を深く染めてしまったからということで、「しむ」は紫の縁語である。「ふち」は淵に藤を掛け、これも紫の縁語として働く。淵に身を投げるという物騒な言い方で、玉鬘への思いの深さを誇張してみせた。求婚の意志を、酔いに紛らせつつ藤のかざしとともに差し出すという、宴席ならではの作法である。宮の歌はこの巻でただ一首であるが、源氏の思惑どおり事が運びはじめたことを告げる役目を担っている。

むらさき:紫のゆかり。ここでは源氏に連なる人、すなわち玉鬘をさす。
心をしむ:心を深く染める。「紫」の縁語。
ふち:「淵」に「藤」を掛ける。「紫」の縁語。
名:世間の評判。
をしけき:惜しいことである。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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