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思ひあまり昔のあとをたづぬれど
親にそむける子ぞたぐひなき

歌の意味
思いあまって昔の物語の跡をたずねてみたけれど、親にそむいた子というのは、他に例のないことだ。
鑑賞
第一部 蛍

 長雨が例年よりも激しく、晴れ間もない退屈のなか、六条院の御方々は絵や物語に明け暮れる。田舎育ちの玉鬘にはことに珍しく、明け暮れ書いたり読んだりして励み、自分のような境遇の者は物語の中にもいなかったと思う。『住吉物語』の姫君が主計頭に危うく犯されかけた件などは、あの大夫監の忌まわしさに思いくらべられた。源氏はこれを見て、女は人に欺かれるべく生まれついたものだと笑うが、やがて物語の意義を説きはじめ、日本紀などは片端にすぎない、物語にこそ道理にかなった詳しいことがあるのだと、名高い物語論を展開する。そして最後に、自分のような律義な愚か者の物語はあるか、あなたのようにつれない姫君は物語にもいまいと言い寄り、寄り添って詠んだのがこの歌である。

 「思ひあまり」は思いに堪えかねての意である。「昔のあと」は古い物語に書き残された先例をいう。「親にそむける子」は、親である自分の求愛に応じない玉鬘をさす。不孝は仏の道にも厳しく戒められていると言い添えるのだから、養父としての立場を盾に取って恋を迫るという、きわめて身勝手な理屈である。物語には何でも書いてあると称賛したその舌の根も乾かぬうちに、物語に例のない我が身を持ち出して迫るところが、この場面の巧みさでもあり、また空恐ろしさでもある。玉鬘が顔も上げないので、源氏は髪を撫でながらひどく恨み言を並べるのだった。

思ひあまり:思いに堪えかねて。
昔のあと:古い物語に書き残された先例。
たづぬ:探し求める。調べる。
そむく:従わない。背反する。
たぐひなし:他に例がない。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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