古典和歌stream

山がつの垣ほに生ひしなでしこの
もとの根ざしをたれかたづねん

歌の意味
山賤の垣根に生えていた撫子の、もとの根の在りかなど、いったい誰が尋ねてくれましょうか。
鑑賞
第一部 常夏

 源氏の歌への返しである。玉鬘は泣いて、わざと何でもないふうに申し上げた。そのさまはまことに心惹かれるほど初々しい。源氏は「来ざらましかば」と口ずさんで、いっそうかきたてられる思いを苦しいまでに抑えかね、やはりこのまま我慢し通すことはできないとお思いになる。実の父に名乗り出たいというのは玉鬘の最大の願いであるのに、それをあえて素知らぬふうに詠んだからこそ、源氏には姫君がいっそういじらしく見えたのだった。

 「山がつ」は山里に住む身分低い者のことで、筑紫で育った自分の境涯を卑下していう。「垣ほ」は垣根。「もとの根ざし」は源氏の歌の「もとの垣根」を受けたもので、根の在りか、すなわち素性をさす。「たれかたづねん」は反語で、誰も尋ねてはくれまい、ということ。源氏の歌が、素性は必ず知れると言うのに対し、こちらは、そんな卑しい生まれを誰が気にとめようかと打ち消す。父に会いたい気持ちを表に出さぬまま、あえて我が身を低く言ってみせる詠みぶりに、この人の慎ましさとしたたかさの両方がにじむ。撫子という一語で親子二代の縁が結ばれるところが、この贈答の眼目である。

山がつ:山里に住む身分の低い者。ここでは筑紫育ちの我が身を卑下していう。
垣ほ:垣根。
なでしこ:撫子。ここでは玉鬘自身。
もとの根ざし:根の在りか。素性。
たれかたづねん:誰が尋ねようか、いや誰も尋ねまい、という反語。
作者
紫式部
出典
源氏物語
その他の歌