古典和歌stream

行く方なき空に消ちてよ篝火の
たよりにたぐふ煙とならば

歌の意味
行方も知れない空で、どうか消してしまってください。篝火のついでに立ちのぼる、そのような煙だとおっしゃるのならば。
鑑賞
第一部 篝火

 源氏の歌への返しである。玉鬘は、なんとも不思議なありさまだこと、養い親が娘に恋をするとはと思いながら、この一首を詠んで、人が変に思いますでしょうと困り果てたようすで訴える。源氏は「くはや」と驚きの声をもらして立ち出でていかれるが、そのとき東の対のほうから風情ある笛の音が箏と合わせて聞こえてきた。夕霧がいつもの仲間と遊んでいるらしい、あれは頭中将(柏木)だろう、ずいぶんことさらに吹く音だ、とおっしゃって立ちどまり、やがて三人を招いて合奏となる。玉鬘は名乗り合わぬ兄弟たちの音に、人知れず耳をとめるのだった。

 「行く方なき空」は行方の知れない空。「消ちてよ」は消してしまってくださいの意で、源氏の歌の「ほのほ」を受ける。「たより」は篝火のついで、ことのついでということで、そこに、篝火の光を頼りとするように自分がこの家に身を寄せている、という含みも重なる。「たぐふ」は連れ添う、寄り添うこと。恋の炎だとおっしゃるなら、それは篝火のついでに立った程度のはかない煙にすぎないのだから、空に消してしまってくださいという応じ方である。源氏が思い入れ深く詠んだのに対し、こちらは正面から受け止めず、煙の語だけを引き取ってかわしている。困りきりながらも即座にこれだけ返すのだから、玉鬘の歌の力量がよく分かる一首である。

行く方なし:行方が知れない。
消つ:消す。
たより:ついで。よすが。篝火の光を頼りとする意を響かせる。
たぐふ:連れ添う。寄り添う。
煙:恋の思いの立ちのぼるさまを、篝火の煙になぞらえる。
作者
紫式部
出典
源氏物語
その他の歌