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忘れなむと思ふもものの悲しきを
いかさまにしていかさまにせむ

歌の意味
忘れてしまおうと思うのも、やはり悲しいことなので、どのようにして、どうすればよいのだろうか。
鑑賞
第一部 藤袴

 式部卿宮の御子息である左兵衛督は、紫の上の兄弟にあたり、親しく六条院に参上なさる君であるから、自然と事情もよく聞き知っていて、たいそう残念に思っていた。まことに多くの恨み言を書き連ねたその末に、この歌があった。届いた文はどれも紙の色、墨つき、焚きしめた香がさまざまで、女房たちはみな、こうした方々も姫君が出仕なさればみな思いを絶ってしまわれるのだろう、さびしいことだと言い合っている。玉鬘はそれらの文を御覧になることもなく、読み上げられるのを聞くばかりであった。

 「忘れなむ」は忘れてしまおうの意である。「いかさまにしていかさまにせむ」は、どのようにしてどうすればよいのか、という繰り返しで、途方に暮れた心をそのまま言葉のうねりにしている。藤原義孝の「忘るれどかく忘るれど忘られずいかさまにしていかさまにせむ」を踏まえた詠みぶりで、下の句をほとんどそのまま借りている。掛詞も見立てもなく、ただ同じ問いを二度重ねるだけであるが、それゆえにかえって切迫が伝わる。前の二首が技巧を凝らしていたのに対し、この一首の身も蓋もなさが並べられることで、求婚者たちの性格の違いがおのずと際立つ仕組みになっている。

忘れなむ:忘れてしまおう。
ものの悲し:何となく悲しい。やはり悲しい。
いかさまにして:どのようにして。
いかさまにせむ:どうしたらよいだろうか。
左兵衛督:左兵衛府の長官。ここでは式部卿宮の子で紫の上の兄弟。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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