おりたちて汲みはみねども渡り川
人のせとはた契らざりしを
- 歌の意味
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水に下り立って汲んでみたわけではないけれど、あの渡り川を、他人の背に負われて渡るとは約束しなかったのに。
- 鑑賞
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第一部 真木柱
尚侍として出仕する直前、玉鬘は女房の手引きによって髭黒大将に強引に契られてしまった。若く美しい姫君を得た大将は有頂天で、源氏は内心の衝撃を押し隠しながら丁重に婿としてもてなす。実父の内大臣は、姉妹の弘徽殿女御と帝の寵を争うよりはよいとこの縁組を喜んだが、当の玉鬘は無骨で雅を解さぬ大将との思いがけない縁を嘆き、恥ずかしさに沈みこんでいた。大将のいない昼ごろ、源氏が渡ってこられる。玉鬘は少し起き上がりながらも御几帳に隠れ、源氏もあらためて他人行儀にふるまい、通りいっぺんの世間話を申される。しだいに打ち解けた話になり、脇息に寄りかかって几帳の内をのぞきながら、面痩せしていっそう可憐になった姿を見るにつけ、他人に渡してしまったのはあまりな物好きであったと悔やまれ、この歌を詠まれた。
「おりたちて汲みはみねども」は、水に下り立って汲んでみたわけではないが、ということで、二人が夫婦の契りを結ばなかったことをいう。「渡り川」は三途の川で、女は死後、はじめて契った男に背負われて渡るという当時の俗信を踏まえる。「せ」は「妹背」の「背」に川の「瀬」を掛ける。夫婦にはならなかったけれども、あの川を他人の背で渡ってよいとまでは約束しなかったのに、という言い分であって、後悔と未練が入りまじる。鼻をおかみになる仕草まで添えて描かれるところに、この場面のなまなましさがある。
おりたつ:水に下り立つ。深く関わる。
汲む:水を汲む。契りを結ぶことのたとえ。
渡り川:三途の川。
せ:「背」に川の「瀬」を掛ける。
はた:それはそれとして。また。
- 作者
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紫式部
- 出典
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源氏物語
- その他の歌
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