独りゐてこがるる胸の苦しきに
思ひあまれる炎とぞ見し
- 歌の意味
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北の方が独りいて焦がれる胸の苦しさに、思いあまってあふれ出た炎だと、私には見えました。
- 鑑賞
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第一部 真木柱
翌日の夕暮、大将はまた急いで玉鬘のもとへ出かけようとなさる。昨夜の衣は焼け穴ができ、焦げた臭いも異様で、下着にも移り香がしみている。嫉妬されたことがあらわに知れては玉鬘も嫌がるだろうと、脱ぎ替え、湯殿でよく身をととのえられた。そのとき薫物を焚きしめながら、木工の君が詠んだのがこの歌である。すっかり北の方をお見限りになったそのおふるまいは、拝見する者までも平気ではいられません、と口元を袖でおおって言うその目元は美しいのだが、大将はどんな気持ちでこんな女房と関係を持ったのだろうかとばかり思っていらっしゃる。情けないことである、と語り手は言い添える。
「独り」に香炉の「火取」を掛け、「思ひ」の「ひ」に「火」を掛ける。「こがるる」も「炎」も、それらの縁語として働いている。灰を浴びせるという常軌を逸したふるまいを、独り取り残された妻の胸の火があふれ出たものと見なす言い方であって、北の方への同情がこもる。同時に、大将の情けを受けながら顧みられなくなった木工の君自身の思いも、そこにひそかに重ねられている。仕える身でありながら主人を諫めるこの一首は、屋敷の内から髭黒を批判する声として置かれている。
独り:独りでいることと、香炉の「火取」とを掛ける。
こがる:焦がれる。恋い焦がれる。「火」の縁語。
思ひ:「ひ」に「火」を掛ける。
あまる:あふれ出る。抑えきれなくなる。
炎:ほのお。「火取」「こがる」の縁語。
- 作者
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紫式部
- 出典
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源氏物語
- その他の歌
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