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うきことを思ひさわげばさまざまに
くゆる煙ぞいとど立ちそふ

歌の意味
つらい出来事を思って気持ちが騒ぐと、さまざまに悔やまれる思いが、くすぶる煙のようにいよいよ立ちのぼることだ。
鑑賞
第一部 真木柱

 木工の君の歌への返しである。続けて大将は、「昨夜のあのとんでもない事どもが、もし人の耳に入ったら、私は妻とも姫君とも縁が切れてしまう身になるだろう」とため息をついて出て行かれた。一夜の隔てを置いただけで玉鬘の美しさはいっそう増して見え、大将はいよいよ他へ心を分ける気にもなれず、長く六条院に籠もってしまわれる。自邸では修法をして騒ぐが、物の怪が仰々しく起こってわめくのを聞くにつけ、恥辱を被ることが必ずあろうと恐ろしくなって寄りつかず、邸に戻る折も別の部屋に離れて、子供たちだけを呼び寄せてお会いになるのだった。

 「くゆる」は煙がくすぶる意に「悔ゆる」を掛ける。木工の君が「炎」と詠んで嫉妬の激しさを言ったのを受け、こちらは「煙」に転じて後悔の煙とした。同じ火の縁語を用いながら、意味を嫉妬から後悔へと移し替える手際である。もっともその後悔は、妻を苦しめたことへのものというより、事が露見して自分の立場が危うくなることへの気遣いであって、それは続く一言に露骨に表れている。世間の評判をなにより恐れるこの人の行動原理が、歌と地の文の落差にくっきりと浮かび上がる。

うきこと:つらい出来事。ここでは灰を浴びせられた一件。
思ひさわぐ:心が乱れ騒ぐ。「思ひ」の「ひ」に「火」を響かせる。
くゆる:煙が「燻る」意に「悔ゆる」を掛ける。
煙:前の歌の「炎」を受ける。
立ちそふ:さらに立ちのぼる。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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