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馴れきとは思ひいづとも何により
立ちとまるべき真木の柱ぞ

歌の意味
なれ親しんできた者として思い出してくれるとしても、いったい何を頼りにこの家に立ちとどまることができましょうか、真木の柱よ。
鑑賞
第一部 真木柱

 姫君が書き終えることもできずに泣いていらっしゃるので、母君の北の方は「さあ」と出発を促して、この歌を詠まれた。御前に控える女房たちもさまざまに悲しく、ふだんは何とも思わない木や草のもとの風情までも、ここを去れば恋しく思い出されるだろうと目をとめて、鼻をすすりあっている。やがて御車が引き出され、振り返ってももう二度と見ることはあるまいとはかない心地がして、梢にまで目をとめ、見えなくなるまで振り返っていらっしゃるのだった。

 「馴れき」は姫君の歌の「馴れきつる」をそのまま受けたものである。「何により立ちとまるべき」は、何を頼りにとどまることができようか、という反語であって、もはやこの家に居場所はないと言い切っている。柱に忘れるなと呼びかけた娘の未練を、母がまっすぐに否定する形の唱和になっており、同じ語を用いながら意味を反転させる返歌の技法が、ここでは慰めではなく断念を促すために働いている。長年連れ添った家を捨てるにあたって、感傷を許さず先へ進もうとする母の強さと、その裏の深い痛みとが、この一首に同居している。

馴れき:なれ親しんできた。前の歌を受ける。
思ひいづ:思い出す。
何により:何を頼りとして。
立ちとまる:その場にとどまる。
べき:…できようか。ここでは反語。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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