今はとて宿離れぬとも馴れきつる
真木の柱はわれを忘るな
- 歌の意味
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今はこれきりとこの家を離れてゆくとしても、長年なれ親しんできた真木の柱よ、私を忘れないでほしい。
- 鑑賞
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第一部 真木柱
業を煮やした式部卿宮は、大将の留守を見はからって北の方と子供たちを迎えにやった。日が暮れ、雪の降り出しそうな空が心細く見える夕方である。迎えの君達が早くと促し、北の方は涙を拭いながら空を眺めていらっしゃる。姫君は父にことのほか可愛がられてきたので、お目にかからずにどうして行けよう、暇乞いも申さぬまま二度と逢えなくなってはと思って、うつ伏したまま動こうとしない。母君に説き伏せられ、今すぐにも父君が帰ってこないかと待つが、この時刻ではもう戻られようもない。いつも寄りかかっていた東面の柱を人に譲る気持ちがするのも悲しくて、姫君は檜皮色の紙にほんの少し書き、柱のひび割れに笄の先で押し入れられた。それがこの歌である。
「真木」は檜など、質のよい木をいう。「宿離れ」は家を離れること。「馴れきつる」は長年なれ親しんできたということで、柱に寄りかかって過ごした年月がそのまま言葉になっている。菅原道真の「東風吹かばにほひおこせよ梅の花あるじなしとて春を忘るな」を踏まえるとされ、去りゆく者が家の物に呼びかけるという型を借りている。人ではなく柱に向かって忘れるなと言うところに、誰にも訴えようのない幼い心の行き場が示されており、書き終えることもできずに泣いてしまう姿が痛ましい。この歌によって姫君は真木柱と呼ばれるようになり、巻名もこれに由来する。
今はとて:今はこれきりと思って。
宿離る:住み慣れた家を離れる。
馴れく:なれ親しんでくる。
真木:檜など、良質の木。
柱:家の柱。ここでは東面の柱。
- 作者
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紫式部
- 出典
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源氏物語
- その他の歌
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