古典和歌stream

おきつ舟よるべなみ路にただよはば
棹さしよらむとまり教へよ

歌の意味
沖の舟が寄る辺もなく波路にただよっているのなら、私のほうから棹をさして寄っていきましょう。どこが泊まりか教えてください。
鑑賞
第一部 真木柱

 そういえば、あの内大臣の御むすめで尚侍を望んでいた近江の君も、その手の者の常として、色めいたうわついた心まで加わって、大臣も持てあましていらっしゃる。弘徽殿女御も、しまいには軽はずみなことをしでかすだろうとはらはらなさるが、人前に出るなと止められてもきかない。ある秋の夕べ、おぼえの高い殿上人が多く女御の御方に参って管弦の遊びをしていたところへ、宰相中将(夕霧)も立ち寄り、いつになく打ち解けて冗談などおっしゃる。女房たちがやはり違うと褒めそやすなか、近江の君は人々を押し分けて出てきて、止めようとする者を睨みつけ、この歌をたいそうはっきりした声で詠みかけた。

 「おきつ舟」は沖にある舟で、夕霧をたとえる。「よるべなみ路」は「寄る辺なみ」に「波路」を掛けたもので、寄る辺がないままの意と、波の路とを重ねる。雲居雁との縁組が進んでいないことをさしている。「棹さしよらむ」は自分から近寄っていこうということ。「とまり」は舟のとまる港で、落ち着き先をいう。相手が独り身なら自分はどうか、というのだから、懸想の歌としてもあまりに直截で、慎みを欠く。続けて「棚無し小舟漕ぎかへり、同じ人をや。あなわるや」と古歌を引き、雲居雁ひとりを思いつづける夕霧を嘲ってみせるところまで含めて、この人らしい歌である。

おきつ舟:沖の舟。ここでは夕霧をたとえる。
よるべなみ路:「寄る辺なみ」に「波路」を掛ける。
ただよふ:漂う。落ち着き先がない。
棹さす:棹で舟を進める。
とまり:舟のとまる港。落ち着き先。
作者
紫式部
出典
源氏物語
その他の歌