花の香は散りにし枝にとまらねど
うつらむ袖にあさくしまめや
- 歌の意味
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花の香は、散ってしまった枝にはとどまらないけれど、移り香となる袖には、浅く染みるということがありましょうか。
- 鑑賞
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第一部 梅枝
明石の姫君の裳着の支度に、源氏は世に類のない心づもりで臨んでいた。東宮も同じ二月に元服なさるので、そのまま入内へと続くことになる。正月の末、公私ともにのどかなころ、源氏は薫物を調合させることにし、二条院の蔵から唐渡りの古い香木まで取り出させて、御方々に二種ずつの調合を依頼された。二月十日、雨が少し降って庭前の紅梅が盛りの日、兵部卿宮が見舞いに渡ってこられる。花を賞でていらっしゃるところへ、前斎院からと言って、散り残った梅の枝に付けた文が届いた。沈の箱に瑠璃の壺を二つ据え、心葉には紺瑠璃に五葉の松、白瑠璃に梅を彫り、結び糸までもしなやかに整えてある。宮が艶なる作りだと目をとめられたその文に、薄く書かれていたのがこの歌である。
「花の香」は薫物の香をいう。「散りにし枝」はもう花の散ってしまった枝で、盛りを過ぎた我が身をたとえる。「うつらむ袖」は移り香の染みるであろう袖、すなわち明石の姫君の袖である。「あさくしまめや」は反語で、浅く染みることなどありましょうか、深く染みるでしょう、ということ。散り残った梅の枝に結んで贈るという趣向がそのまま歌の言葉になっており、贈り物と歌とが一体に仕立てられている。我が身を退かせつつ相手を祝うという構えで、朝顔の姫君らしい慎ましさと、香の道の腕前とが同時に示される。宮はこれを仰々しく口ずさまれ、源氏は文をさっと隠してしまわれた。
花の香:花の香り。ここでは薫物の香をいう。
散りにし枝:花の散ってしまった枝。盛りを過ぎた身のたとえ。
うつる:香が移る。染みつく。
しむ:染みる。深く入りこむ。
しまめや:染みるだろうか、いや深く染みる、という反語。
- 作者
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紫式部
- 出典
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源氏物語
- その他の歌
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