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鶯のこゑにやいとどあくがれん
心しめつる花のあたりに

歌の意味
鶯の声に、いよいよ心が浮き立つことでしょう。すでに心を染めてしまったこの花のあたりで。
鑑賞
第一部 梅枝

 月がのぼり、大御酒などを召して昔語りに興じられる。霞む月影が奥ゆかしく、雨のなごりの風がすこし吹いて、花の香とともに御殿は薫物の匂いに満ちわたり、人々の心地はまことに優美である。蔵人所のあたりでも翌日の管弦の手ならしに笛の音が聞こえる。柏木や弁少将らを引きとどめて琴を召し、兵部卿宮が琵琶、源氏が箏、柏木が和琴、夕霧が横笛を受け持ち、弁少将が拍子をとって催馬楽の「梅が枝」を歌い出すさまは、まことに趣深い。宮も源氏も声を合わせられ、大げさではないが風情ある夜の遊びとなった。盃をさし上げるにあたって、宮が詠まれたのがこの歌で、「千代も経ぬべし」と言い添えられた。

 「鶯のこゑ」は催馬楽「梅が枝」に「梅が枝に来ゐる鶯」とあるのを踏まえ、ここでは弁少将の歌声をさす。「あくがる」は心が身から離れてさまよい出ること。「心しめつる花のあたり」は心を染めてしまった花の咲くあたりで、六条院そのものをいい、「しむ」は香の染むと心の染むとを掛ける。「千代も経ぬべし」は「いつまでか野辺に心のあくがれむ花し散らずは千代もへぬべし」を引き、この宿にいつまでもとどまっていたいという挨拶になる。薫物合わせの判者を務めた宮が、その香の縁語をそのまま宴の歌に持ちこんでいるのが巧みで、この巻の歌々が「花」「香」「鶯」の三語で連なってゆく起点となる一首である。

鶯のこゑ:鶯の鳴き声。ここでは催馬楽を歌う声をさす。
いとど:いよいよ。ますます。
あくがる:心が身を離れてさまよい出る。うわの空になる。
心しむ:心を深く寄せる。「香が染む」意を掛ける。
花のあたり:花の咲くあたり。ここでは六条院。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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