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よるべなみ風のさわがす舟人も
思はぬかたに磯づたひせず

歌の意味
寄る辺がなくて、風に騒がされている舟人であっても、思いもよらぬ方角へ磯伝いをすることはありません。
鑑賞
第一部 真木柱

 近江の君の歌への返しである。夕霧はひどく不審に思い、この御殿にこんなぶしつけなことを言う者がいようとは聞いたこともないと思いめぐらすうち、かねて噂に聞いていたあの近江の君であったかと気づいて、おかしくなってこの一首を返された。それで近江の君は決まりの悪い思いをしたとかいうことである。ここで真木柱の巻は閉じられ、物語は明石の姫君の裳着を語る梅枝巻へ移ってゆく。

 「よるべなみ」は近江の君の歌の語をそのまま受けたものである。「風のさわがす舟人」は風に翻弄される舟人で、縁談の定まらぬ我が身をいう。「思はぬかた」は思いもよらない方面で、近江の君をさす。「磯づたひせず」は磯に沿って寄って行くことはしない、ということ。舟にまつわる語をひとつ残らず引き継ぎながら、行き先だけをきっぱり否定する返し方である。まじめ一方の夕霧が、藤袴巻では技巧のない歌を詠んで語り手に評されたのに、ここでは相手の縁語を的確に用いて切り返しており、その落差もまた可笑しい。玉鬘十帖の幕切れに、笑いを添えて置かれた一首である。

よるべなみ:寄る辺がないので。前の歌を受ける。
さわがす:騒がせる。もてあそぶ。
舟人:舟に乗る人。ここでは夕霧自身。
思はぬかた:思いもよらない方角。ここでは近江の君をさす。
磯づたひ:磯に沿って進むこと。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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