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かぎりとて忘れがたきを忘るるも
こや世になびく心なるらむ

歌の意味
こうするほかないといって、忘れがたい私のことを忘れてしまわれるのも、これが世間になびくお心というものなのでしょうか。
鑑賞
第一部 梅枝

 夕霧の歌への返しである。他との縁談についてはおくびにも出さぬそのつれなさを、雲居雁は恨めしく思いつづけながら書き送った。ところが夕霧は中務宮の姫君との縁談のことなど何も知らないので、これはどういうことなのだと不審に思い、文を下に置くこともできず、首をかしげかしげ見入っていらっしゃる。二人の思い違いはこのまま解けぬまま、物語は藤裏葉巻へと持ち越されてゆく。

 「かぎりとて」は、これが限りだと思って、こうするほかないと思っての意である。「忘れがたきを忘るる」は、忘れがたいはずの相手を忘れてしまうということで、自分を捨てて他へ心を移す夕霧をさす。「こや」はこれこそがの意。「世になびく心」は世間の勢いに従う心で、権門との縁組を進めようとする振る舞いをそう言いなしている。夕霧の歌の「うき世のつね」「人にことなる」を受けて、世になびいているのはむしろあなたのほうでしょうと切り返す形になっており、相手の語をそのまま裏返す返歌の技法が用いられている。もっとも夕霧には身に覚えのないことなので、鋭い一首がそのまますれ違いを生み、二人の仲はいっそう捩れてゆく。

かぎりとて:これが限りだと思って。こうするほかないと思って。
忘れがたき:忘れることのできないもの。ここでは雲居雁自身。
こや:これこそが。
世になびく:世間の勢いに従う。時流に迎合する。
らむ:…なのだろうか。原因推量。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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