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わが宿の藤の色こきたそかれに
尋ねやは来ぬ春のなごりを

歌の意味
わが家の藤の色が濃く映える黄昏どきに、春の名残をたずねて来てはくださらないだろうか。
鑑賞
第一部 藤裏葉

 夕霧と雲居雁の仲を長年拒みつづけてきた内大臣も、二人の恋が世に知られている今となっては、他の相手と娘を娶わせるのも外聞が悪く、夕霧が焦って申し込んでくる気配もないので、しだいに自分から折れるべきだと思うようになっていた。三月二十日、母大宮の忌日の法事の折、帰りぎわに夕霧の袖を引いてそれとなく話しかけ、和解のきざしを見せる。四月の朔日ごろ、内大臣邸の庭前の藤の花が世の常ならず美しく咲き乱れ、暮れゆくにつれいっそう色まさるのを、ただ見過ごすのは惜しいと、管弦の遊びを催した。そして頭中将(柏木)を使いに立て、先日の対面が物足りなかったので暇があれば立ち寄られよ、と伝えさせる。その文に、見事な藤の枝に結びつけてあったのが、この歌である。

 「わが宿」は内大臣邸をさす。「藤の色こき」は藤の花房の色が濃いことで、その「藤」に雲居雁を重ねている。「たそかれ」は黄昏で、藤の紫がもっとも映える時刻である。「春のなごり」は過ぎゆく春の名残で、晩春から夏へと咲きかかる藤に、これが今を措いてない好機であることをこめる。白居易の「惆悵す春の帰りて留むれども得ざることを、紫藤の花の下漸くに黄昏たり」を背景に持つ。表向きは花見への誘いでありながら、藤に娘を、黄昏に今この折を託して、結婚を許すという意向をひそかに投げかけた一首である。巻名「藤裏葉」は、続く宴で内大臣が口ずさむ「藤の裏葉の」の古歌に由来し、この藤の贈答が巻全体の主題を開く。

わが宿:わが家。ここでは内大臣邸。
藤の色こき:藤の花房の色が濃い。「藤」に雲居雁を重ねる。
たそかれ:黄昏。夕暮れどき。
尋ねやは来ぬ:たずねて来ないだろうか。
春のなごり:過ぎゆく春の名残。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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