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なき人のかげだに見えずつれなくて
心をやれるいさらゐの水

歌の意味
亡き人の姿さえ映して見せることもなく、素知らぬ顔で気持ちよさそうに流れている、浅い遣水の水ですこと。
鑑賞
第一部 藤裏葉

 夕霧の歌への返しである。雲居雁もまた、育ててくれた祖母大宮を偲んで、遣水に寄せてこの歌を詠んだ。二人の唱和が終わろうとするころ、太政大臣(もとの内大臣、雲居雁の父)が宮中から退出したついでに、六条院の紅葉の色に驚かされてこの三条殿にお立ち寄りになる。かつて父母の健在だったころとほとんど変わらず、あたり一帯が落ち着いて住みなされているのを御覧になるにつけ、大臣はまことに感慨深くお思いになる。散らばっていた先ほどの手習の歌を見つけて、涙にお暮れになるのだった。

 「なき人」は夕霧の歌を受け、故大宮をさす。「かげだに見えず」は、その姿さえ水に映して見せてくれない、ということ。「つれなくて」は素知らぬ顔で、無情での意である。「心をやれる」はのびのびと心地よさそうにの意で、遣水がわが物顔に流れるさまをいう。「いさらゐ」は浅く小さな流れで、ここでは遣水をさす。「なき人の影だに見えぬ遣水の底に涙を流してぞ来し」を背景に持つ。夫が真清水に亡き人の消息を問うたのに対し、妻は、その水は何も映さず知らぬ顔で流れているとやや恨めしげに応じる。同じ遣水を見つめながら、夫は水に語りかけ、妻は水の無情を嘆く。幸福の絶頂にあって亡き祖母を共に悼む、心のこもった唱和である。

なき人:亡くなった人。ここでは故大宮。
かげ:水面に映る姿。
つれなし:素知らぬふうである。無情である。
心をやる:のびのびと心地よく過ごす。
いさらゐ:浅く小さな水の流れ。ここでは遣水。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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