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そのかみの老木はむべも朽ちぬらむ
植ゑし小松も苔生ひにけり

歌の意味
その昔の老木は、なるほど朽ちてしまったことだろう。当時植えた小松にさえ、今はもう苔が生えているのだから。
鑑賞
第一部 藤裏葉

 太政大臣は、散らばっていた手習の歌を御覧になって涙にくれ、「この遣水の心を尋ねてみたいものだが、老人は縁起でもないことを言わぬようにして」とおっしゃりながら、この歌を詠まれた。夕霧と雲居雁の唱和が亡き大宮を偲ぶものであったのを受けての一首である。大臣にとって三条殿は自分の生まれ育った家であり、いま娘と婿がそこに新居を営んでいることに、深い感慨をおぼえていらっしゃる。

 「そのかみ」は昔、その当時の意である。「老木」は年老いた木で、故大宮をたとえる。「むべも」はなるほど、いかにもの意。「朽ちぬらむ」は朽ちてしまっただろうということ。「植ゑし小松」は昔ここに植えた小松で、大臣自身をたとえる。老木が朽ちるのも道理だ、自分の身にたとえた小松にさえもう苔が生えているのだから、というので、母の死と我が身の老いとを重ねて詠嘆する。子や婿の唱和が亡き人を水に問う趣向であったのに対し、こちらは老木と小松という木のたとえで応じ、世代の移りゆきをしみじみと受けとめている。長らく意地を張りあってきた夕霧との和解ののち、育ての親を共に悼むこの唱和が、両家の融和を静かに印づけている。

そのかみ:その昔。当時。
老木:年老いた木。ここでは故大宮のたとえ。
むべも:なるほど。いかにも。
朽つ:朽ちる。老いて衰える。
小松:小さな松。ここでは太政大臣自身のたとえ。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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