身を投げむ淵もまことの淵ならで
かけじやさらにこりずまの波
- 歌の意味
-
身を投げようとおっしゃる淵も、本当の淵ではないのだから、これ以上、懲りない波などかぶりはしない。
- 鑑賞
-
第二部 若菜上
源氏の「沈みしも」の歌を受けて、朧月夜が返したのがこの歌である。あなたの言う淵は本当の淵ではない、つまり本気ではないのだからと述べ、その言葉に乗って波をかぶるようなことはしないと退けている。源氏の執心を承知のうえで、なお身を守ろうとする冷静さがうかがえる。しかし逢瀬は絶えず、彼女は朱雀院の後を追って出家することをいよいよ強く思うようになる。
「淵」は相手の歌の「藤波」に掛けられた淵をそのまま受け取った語で、深く真剣な思いのたとえとして用いられている。「まことの淵ならで」は本当の淵ではないので、すなわち本気ではないのでという意である。「こりずまの波」も相手の「こりずま」を引き取っており、贈答歌として語が正確に対応している。相手の縁語を残らず受け返しながら、真剣さを疑うという一点で切り返す構成で、朧月夜の歌の中でも冴えた返しである。
淵:深いふち。深く真剣な思いのたとえ。
まことの淵ならで:本当の淵ではないので。本気ではないので。
かけじ:かぶるまい、かかるまい。
こりずまの波:懲りない波。「須磨」を掛ける。
- 作者
-
紫式部
- 出典
-
源氏物語
- その他の歌
-