老の波かひある浦に立ち出でて
しほたるる海人を誰れかとがめむ
- 歌の意味
-
年老いた身が、生きた甲斐のあるこの浦に出てきて、涙にぬれている海人を、誰がとがめたりするだろうか。
- 鑑賞
-
第二部 若菜上
内裏にいた明石の女御は懐妊し、産み月が近づいたため六条院の冬の御殿へ移る。そこは実母である明石の君の住まいであり、女御はここではじめて祖母の明石尼君と対面する。尼君は孫の立派な姿を目の前にして、明石の浦での日々や女御が生まれた折の経緯を語り、こらえきれず涙をこぼす。この歌はその折に詠まれたもので、女御と明石の君が続けて詠み、三人の唱和歌となる。女御は自分の出自をはじめて実感し、感涙する。
「老の波」は寄せる波に老いの皺を重ねた言い方である。「かひある浦」は「貝」に「甲斐」を掛け、生きた甲斐のある場所という意を持たせている。「しほたるる」は潮に濡れる意から涙にぬれることをいい、「海人」に「尼」を掛けて出家した自分を指す。波
貝
浦
潮垂る
海人と、明石の浦の景をなす語を一首に通しており、老いた身が孫の栄えに立ち会えた喜びを、生涯を過ごした海辺の言葉だけで言い表している。
老の波:寄せる波に老いを重ねた語。
かひある浦:「貝」に「甲斐」を掛ける。
しほたるる:潮にぬれる。涙にぬれる意。
海人:漁をする人。「尼」を掛ける。
女御:天皇や東宮に仕える后妃の位。
- 作者
-
紫式部
- 出典
-
源氏物語
- その他の歌
-