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世を捨てて明石の浦に住む人も
心の闇ははるけしもせじ

歌の意味
世を捨てて明石の浦に住んでいるあの人も、子を思う心の闇が晴れることはないだろう。
鑑賞
第二部 若菜上

 明石尼君と女御の唱和を受けて、実母の明石の君が最後に詠んだのがこの歌である。明石の浦に残った父の入道に思いを向け、出家した身であっても子を思う心の闇は晴れないだろうと述べている。娘を紫の上に譲り、母と名乗らずに仕えてきた明石の君自身の心の闇も、この一首の底に重ねられている。三人の唱和はこうして祖父にまで及び、明石一族の物語が一度に見渡される場面となる。

 「世を捨てて」は出家することをいい、「明石の浦に住む人」は父の入道を指す。「心の闇」は子を思うあまり分別を失うことで、古歌以来「人の親の心は闇にあらねども子を思ふ道に惑ひぬるかな」の言い方を背景に持つ語である。「はるけし」は晴れ晴れとすること、「もせじ」は決してしないだろうという打消の推量である。二人の歌が海辺の景を詠んだのに対し、こちらは景を離れて人の心に向かっており、唱和を締めくくる位置にふさわしい一首になっている。

世を捨つ:出家する。
明石の浦に住む人:父の明石入道。
心の闇:子を思うあまり分別を失うこと。
はるけし:晴れ晴れとする。
もせじ:決してしないだろう。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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