古典和歌stream

いかなれば花に木づたふ鴬の
桜をわきてねぐらとはせぬ

歌の意味
どうして、花から花へと木を伝う鴬は、桜をとりわけて塒としないのだろうか。
鑑賞
第二部 若菜上

 三月の末、六条院で蹴鞠の催しが開かれる。柏木も加わっていたところ、唐猫が飛び出して御簾を引き上げてしまい、その奥にいた女三の宮の姿を柏木は思わず目にする。かねて宮の降嫁を切望していた柏木の思いは、この垣間見によっていよいよ抑えがたいものになった。宴の後、夕霧と同じ車で帰る道すがら、柏木がさりげなく詠みかけたのがこの歌である。夕霧はその意を察して返しを詠み、話をそらして別れる。

 「花に木づたふ鴬」は花から花へ枝を移る鴬で、多くの女君のもとを行き来する源氏をたとえている。「桜」は数ある花の中でも格別のものとして女三の宮を指す。「わきて」はとりわけての意である。宮を大切にしていないのではないかという不満を、鳥と花の景に置き換えて述べており、直接には何も言わない形になっている。垣間見た宮への執心を隠しながら探りを入れる詠みぶりで、柏木の危うさがここから動き出す。

いかなれば:どうして。
木づたふ:木から木へ移っていく。
鴬:春に鳴く鳥。ここでは源氏。
わきて:とりわけて、特別に。
ねぐら:鳥の寝る場所。塒。
蹴鞠:革製の鞠を蹴り上げて続ける遊び。
作者
紫式部
出典
源氏物語
その他の歌