古典和歌stream

住の江をいけるかひある渚とは
年経る尼も今日や知るらむ

歌の意味
住の江を、生きてきた甲斐のあった渚だと、年老いた尼も今日こそ知ることだろう。
鑑賞
第二部 若菜下

 源氏の「誰れかまた」の歌を受けて、明石尼君が返したのがこの歌である。かつて明石の浦で娘の行く末を案じ、住吉の神に願を掛け続けてきた身が、今こうして孫の栄えを見る場に居合わせている。長生きした甲斐があったという感慨を、住の江の渚という土地の名に託して述べている。この後、一行は夜を徹して神楽を奏し、明け方、深い霜の中で明石一族の幸いがあらためて語られていく。

 「住の江」は住吉の別名で、海辺の地としての呼び方である。「いけるかひ」は「貝」に「甲斐」を掛けた語で、渚という景と生きた甲斐という意味とを一語で結んでいる。「尼」は「海人」を掛けており、出家した自分と海辺に働く人とを重ねる、明石一族の歌に繰り返し用いられてきた掛詞である。相手の歌の「住吉」を「住の江」と受け直し、贈答歌として語を確かに引き継いでいる点も見どころである。

住の江:住吉の海辺の呼び名。歌枕。
いけるかひ:「貝」に「甲斐」を掛ける。
渚:波打ち際。
年経る:年を重ねた、年老いた。
尼:出家した女性。「海人」を掛ける。
作者
紫式部
出典
源氏物語
その他の歌