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昔こそまづ忘られね住吉の
神のしるしを見るにつけても

歌の意味
昔のことがまず忘れられない。住吉の神の霊験を目の当たりにするにつけても。
鑑賞
第二部 若菜下

 住吉の社頭では夜通し神楽が奏され、やがて明け方となる。霜はいよいよ深く、あたりは白く覆われた。華やかな行列と楽の音の中で、明石尼君ひとりは明石の浦で過ごした年月を思い返している。娘を都へ送り出し、孫を紫の上に譲り、名乗ることもできぬまま仕えてきた一族の歳月が、この参詣によって報われた。この歌はその感慨を一人つぶやくように詠んだ独詠歌である。この後、紫の上たちが霜を題として唱和し、場は明るい方へ移っていく。

 「昔」は明石の浦での日々を指す。「まづ忘られね」は何よりもまず忘れられないということで、目の前の栄えよりも過去のほうが先に立つ心の動きを表している。「神のしるし」は神の霊験、御利益のことである。栄華の場にありながら苦難の記憶が先に浮かぶという構図は、この一族の歌に共通するもので、住吉参詣の場面を単なる祝祭に終わらせない働きをしている。

まづ:何よりもまず、真っ先に。
忘られね:忘れることができない。
しるし:霊験、御利益。
神楽:神前で奏する歌舞。
社頭:神社の前。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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